「湯船につかっていたら、膣からピンポン玉のようなものが飛び出してきた」、「長時間立っていると、股の間に何かが挟まるような違和感を覚える」、「座ったときに、膣のあたりに何かを押し込まれるような感じがする」…

こんな症状が思いあたる人は、骨盤臓器脱かもしれません。

骨盤臓器脱とは

骨盤臓器脱に大きく影響しているのが、骨盤底筋と呼ばれる筋肉群です。骨盤底筋は、もともと人類が四足歩行をしていた時代に尾っぽをふるために使われていたものでしたが、ヒトが二足歩行を始めると内臓の重みを支える役割に変わりました。

女性の骨盤のなかは、膣を中心に靭帯が張り巡らされており、骨盤底筋群がハンモックのように内臓の重みを受け止めています。そして、尿を蓄えたり、排尿や排便をする機能にも重要な役割を果たしています。

ヒトは、骨盤の大きさに比べると過大に発育した赤ちゃんを出産します。その結果、産道となった子宮下部、膣、骨盤底筋群が少なからず傷つきます。この傷は分娩後1~2カ月でほぼ癒えますが、閉経を迎えると女性ホルモンの減少も影響して骨盤底筋が緩んだり、外れたりしてしまうのです。その結果、骨盤の中の臓器が本来の位置から下がってきて、膣を通して体外に出てくることがあります。これが骨盤臓器脱です。

症状について

自覚症状としては、排尿や排便の障害、尿や便の失禁、頻尿、下腹部痛、臓器の脱出感などで、出てくる臓器によって次のような種類があります。

  • 子宮脱…子宮が膣から下がってくる
  • 膀胱瘤(ぼうこうりゅう)…子宮の前方にある膀胱が膣壁を押して下がってくる
  • 直腸瘤(ちょくちょうりゅう)…直腸が膣壁を押して脱出してくる(直腸粘膜が肛門から脱出してくる直腸脱(=脱腸)とは別のものです)
  • 尿道脱…尿道の粘膜が尿道口からめくれるように出てくる

このほか、複数の臓器が下がってくる複合型の臓器脱もあります。骨盤臓器脱の結果、日常生活で起きるのが排尿・排便障害です。

骨盤臓器脱になりやすいのは、分娩回数が多く、帝王切開ではなく経膣分娩した人ですが、生活習慣も無関係ではありません。過度な肥満や慢性の便秘も骨盤底に腹圧を加えることになりリスクを高めます。また、重たいものを持ち上げることが多い清掃や給食、農業・漁業、介護職などの職業の人に多いといわれています。

日頃から、重いものは持たないようにしたり、便秘しない食生活を心がけたりすることが大切ですが、骨盤底筋を鍛える体操をしておくことでも予防ができます。

治療法について

すでに骨盤臓器脱になってしまっても、今は新しい治療法が開発されています。

外科手術をしない保存的治療としては、臓器が体の外に出てこないようなクッションが取り付けられるショーツ(フェミクッション(R))や、膣の中にペッサリーと呼ばれるリング状の器具を挿入して、子宮が落ちてこないようにする方法があります。

でも、根本的な治療を望むなら外科的手術も検討しましょう。骨盤臓器脱の手術には、膣から子宮を摘出する「膣式子宮全摘術」、骨盤内の仙棘靭帯という靭帯に膣を縫い付けて持ち上げる「仙棘靭帯固定法」などのほか、最近は弱ったり外れたりした骨盤底筋の代わりに、メッシュという人工的に作られた網状の合成樹脂で子宮などをつりあげて固定するTVM手術などが行われています。

異物感、下垂感、排尿障害などでお困りの方はぜひ当院にご相談ください。