妊娠期間中や出産におけるリスク

女性が高年になってから妊娠する場合問題になるのは、妊娠率の低下だけではありません。妊娠期間中や出産におけるリスクがそれ以前の年齢層より高まることから、日本産婦人科学会では1991年以降、35歳以上の初産婦を「高年初産婦」と定義し、要注意妊婦として管理することとしています。
高齢出産が増えているという情報を耳にすることもあると思いますが、正式には「高齢出産」という定義はなく、医学的には「初産」で「高年」であることでよりいっそうリスク増加につながるのです。「高年」の出産だけであれば昔もあったし、むしろ今より多かったかもしれません。ある統計では、出産総数に対する女性の年齢層別割合をみると、1925年には35歳以上は20.5%、40歳以上は6.6%あり、2011年の35歳以上24.7%、40歳以上の3.6%と比較しても高年での出産は決して少なかったわけではないようです。むしろ20歳代前半から出産し始め、閉経近くになるまで出産を続けていたというべきでしょう。

問題は初産年齢が上がったこと

問題は初産年齢が上がったことです。2011年、平均初産年齢が初めて30歳を超え、高年初産の割合は8.5%を占めるようになりました。高年初産のリスクは、一般的には流産、切迫早産の増加、妊娠高血圧症候群など母体合併症の増加・難産(微弱陣痛、軟産道強靭、母体疲労などによる)・分娩時出血多量などが言われています。妊娠適齢期は20歳頃から35歳頃という説もあり、生物学的にはその頃に妊娠する方が妊娠出産にかかわる様々なリスクを減らすことが出来るといえます。
そうは言っても、いい人にめぐりあえないという人は多く、結婚してから子どもを出産することが大部分を占める日本では、晩婚化=高年初産になります。平成17年の国民生活白書では「子育て世代の意識と生活」と題したデータが様々記載されています。女性の高学歴化が晩婚化につながっているという説をよく見かけますが、これらのデータからはむしろ経済問題の方が関連していることがわかります。
また、個人的には、「結婚するつもりがない人は両親の夫婦関係をうらやましいと思っていない」とか「父親が家事をする姿を見なかった女性は一生結婚しない気持ちにつながっているが、男性は影響されていない」など、『日本の伝統的家庭』の中に潜む夫婦関係の問題点を突いているようで興味深いと思います。
白書によると、結婚するつもりのない人は少数派であり、結婚した人の中では子どもをほしくないと思う人もごく少数であることが示されています。つまり、大抵の人はいつか結婚して子どもを持つことを考えているといえます。

しかし、現実には子どもを望んでいても恵まれない夫婦も大勢います。白書によると、25歳から39歳の妻の約35%は不妊症の心配をしたことがあったり現在心配していたりします。実際に不妊治療したことがあったり現在治療中の人は約2割前後です。
不妊治療の相談はほとんどの場合、まず女性が産婦人科を訪れることから始まります。

不妊症の原因

ところで、不妊症の原因は男性、女性どちらにもありうるのですが、どの程度の割合かご存知ですか?WHOの不妊原因調査では、男性因子のみ24%、女性因子のみ41%、男女とも24%、原因不明11%となっています。つまり不妊症の48%は男性にも原因があるということですので、決して女性だけの問題ではないということです。
ところが、男性因子を調べるために精液検査をしようとすると、ここで突然スピードダウンします。「忙しい」「そこまではいい」と夫が言っているとおっしゃるのです。
ここで、私が行きつけの美容室での男性スタッフとの会話を思い出します。私はそこで、『性の伝道師』としての役割をいかんなく発揮していますので、男女問わずそこのスタッフからいろいろな性の質問を受けていて、一般の人たちの性の疑問を調査する場所として大変重宝しています。
彼曰く、「自分の精子がどのくらいあるのかとか元気なのかすごい気になるんですよ!」「射精の時に飛ぶ距離って精子の能力に関係あるんですか?」など、世の男性陣はペニスの大きさや包茎かどうか気になっているというのは知っていましたが、そうか、自分のJr達の数や能力も自分の男としての価値を示す重要な要素なのだと知りました。
そこで、不妊検査で男性因子が疑われたとたん、自分の価値が貶められると感じる男性が不妊治療そのものに消極的になっていくのではないかと思いました。たとえ、社会的地位や経済的能力を持っていても「種がない」と思う、或いは思われるだけで、自分の社会的存在価値を脅かすほどの恐怖を感じるのではないか。それは、主に男性社会の中での心理的な序列にも影響しているのではないかと思えるのです。
そして、女性の妊娠年齢のタイムリミットが近づきいよいよ男性が重い腰をあげて、治療を開始する。高年初産の背景の一部はこのような理由があるのではないかと、私は密かに思っているのです。
最近、タレントのダイヤモンド☆ユカイさんが自らの無精子症の治療の末子宝に恵まれた経験を著書で明らかにし、マスコミでもよく取り上げられるようになりました。自分に不妊の原因があることを知ることも出来ないガラスのハートの男性を勇気づけるものであり、不妊症治療が夫婦でともに乗り越えることになる大きなきっかけになるのではないかと思っています。