都立高校全学年向けの講演会、讀賣新聞多摩版に活動の取り組み掲載、各種団体からの取材、などなど降って湧いた有名人モードに「いったい何が起こっているの??」と困惑しているスタッフ一同です。そして、プロジェクトの取材とは別に、雑誌「an ・ an」からも性感染症と避妊についてコメントを求められ、かずこ先生、とうとう全国デビューしてしまいました! !(ああ、そういえばMedi-Wingも全国発行でしたね…。)
一般的な性の悩み事、相談事にはある程度答えられると自分でも思っていますが、最近自分に死角があったことに気づきました。それは、障がい児(者)の性の問題です。今回は、“障がい児(者)と性”の問題について書きたいと思います。

子ども達に性教育をやってもらいたい

ある日、プロジェクトホームページを見たという人からメールがありました。重度障害児養護施設の職員という男性から、職員向けに出張性教育をやってもらえないかという希望での連絡でした。よくお話を確認してみると、入所中の思春期を迎えた子ども達のうち何名か、どのように対応していいかスタッフ間で問題になっているということでした。自分達もちゃんとした性教育を受けているわけではないし、知的障がいや身体障がいがある子どもへの性に関わる対応法がわからない。施設に隣接する、子ども達が通学している特別支援学校に、「子ども達に性教育をやってもらいたい」とお願いしたが断られた。そのままにはしておけないので、自分達が性教育を受けようという話になったようです。

この雑誌を読んでいる方は、都立養護学校(現在の特別支援学校)における性教育で大変なバッシングがあり、教員が処罰された事件があったことをおそらくご存じないでしょう。学校内で起こったある性問題をきっかけに、知的障がいがあっても自分の体を知り、自分の体を守ることが出来るよう、体の名称など必要事項を人形や歌で教えていたある都立養護学校で、2003年、子ども達の保護者からはその教育が好評であったにもかかわらず、「常識を逸脱した破廉恥で過激な性教育」として一部の都議会議員から批判され、教育委員会に教材を没収された上、校長および関係教諭が処罰されたというものです。その影響は甚だしく、全国的に活発になりかけていた性教育の取り組みが一気に停滞あるいは後退したのです。
養護施設職員の方の話を聞いて、未だにその影響が根深く、教育機関が教育を放棄するというお粗末な現状が続いていることに全く腹立たしい思いがしました。特別支援学校だけでなく、多くの学校が性教育に及び腰になることで、結果的には子ども達の性的自己決定権を奪っているということに、大人達は気付くべきではないでしょうか。
相談の結果、職員への出張講座ではなく、個別の問題について具体的に相談に乗るということにし、アドバイスしてもらえる専門家をご紹介する、ということにしました。相談内容は、思春期女子の行動と小学男児のマスターベーションに関するものでした。

性の健康を考える上での基本的なスタンス

性の健康を考える上での基本的なスタンスとして、自分の体は自分のもの、自分のことは自分で決める権利があるという大前提があります。しかし、重度の身体障がいがある場合、介護、介助、安全の確保の関係で、そのことが非常に難しいことでもあると今回知りました。幼児以降、いわゆるプライベートゾーンを人に見せないという説明は、通常の生活をしている私達には簡単にイメージ出来るし、わかりやすい事だと思います。しかし、常に体に触れられる介護、介助を要し、毎日のようにプライベートゾーンを見せる必要のある子ども達にとって、介護・介助と性的な意味合いを持つ接触の区別を認識するのが難しいということ。また、マスターベーションの場合、清潔な操作と、プライベートなことなので人の前ではやらない、という説明は、安全確保の観点から、完全にプライベートスペースを保証することが難しいという問題があります。

性被害

報道される性被害の中でも、障がい者施設入所中に被害にあった例もよく聞きます。様々な制限のある中で、自己の性的決定権を伝え、保証していくことの困難さ、自分で自分の身を守ることの困難さをあらためて知りました。
社会システム上の弊害は、社会的弱者に強く現れます。障がいを持つ彼ら彼女らこそ、性被害から身を守り、性の健康を維持するために、個々に応じたキメ細やかな性の健康教育が行われるべきであるのに、最も取り残されている現状。全ての子ども達に性の健康教育を受ける権利を保障する義務が、国や私たち大人には課せられていると感じた経験でした。